地獄の般若心経一万巻転読行
山中でひとり二十一日間、一日につき一握りの麦と水だけで般若心経一万巻転読という荒行である。
一日十五時間程かけ般若心経を五百巻、時には、八百巻、ロウソクを見ながら読経する。
昭和六十三年五月八日 新たな行が始まった。
夜はワラを敷きムシロを被(かぶ)り寝た。雨が続くと身体は急激に冷え衰弱し、ロウソクの炎を見続けた目は悪くなり、それでもなお座り続け世の人々の幸せを祈り続けた。
満行の日、「声が、声が出ない」。手に持つ念珠も重く感じ、気力も底をついてきたようだ。スーッと意識が薄らいだり戻ったりの状態が私に起きていた。
突然、私はまばゆい光に包み込まれていった。
そして私に一条の光が飛び込んできた。
その瞬間と同じくして私の耳に「終わりました。満行です。」と体を揺すり、語りかける声を聞いた。両脇で誰かが支えてくれている。
その時、はじめて行が終わったことに気がついた。しかし、立つこともできず、そのまま倒れこんでしまった。
こうして、般若心経一万巻転読行が終ったのである。