〜自己実現のための究極の脳力開発とシステム〜

THE LUMINOUS DARKNESS ~光る闇~

盲目の回峰行犬 十兵衛(じゅうべい)と阿闍梨の生命(いのち)の旅 

 

盲目の犬 十兵衛

私はあえてこの目の見えない犬と自分の命を

分かち合うことを決心した。

回峰行、暗闇の中で目の見えない人間

私は盲目の回峰行犬 十兵衛と

どこまでも苦しみを・・・命を・・・

分かち合ってみようと思った。

八月二十三日、白装束という死への旅立ちの姿をし

行の途中死ねば塔婆(とうば=墓標)となる

金剛杖(こんごうつえ)を右手に持ち

腰には自決用の短刀を差し

肩には人々の願いと氏名を記した巻物を掛け

首には六文銭(ろくもんせん)、手甲(てっこう)、脚絆(きゃはん)、わらじ、あじろ笠

回峰行犬「十兵衛」をお共に連れて

私は暗い山中へと入って行った。

 

 

目の見えない人と犬

回峰行者は、マムシや野犬を発見するために犬を連れて歩く。

私も回峰行に連れて行く犬を求めていた。

あるところで、ふと私の足が止まった。すると、

黒い小さなハスキー犬が檻の中からじっと私を見つめている。

おそらく私が犬を見つける前に、犬の方が先に私のことを見つけたようだ。これが回峰行中、見えない目で私を見つめ続けた盲目の犬「十兵衛」と私の出会いである。

十兵衛は、回峰行に連れていくために、生後4カ月目で警察犬訓練所へ入った。

しかし、しばらくして訓練士の先生が障害物の前で立ち止まる十兵衛に不信を抱き、動物病院へ診察に連れて行ったところ、先天性白内障であることがわかった。

診察の結果、目が全く見えてないと告げられた。通常この様な場合は、薬殺することも告げられた。私は悲しみで胸が一杯だった。十兵衛が不憫で涙が流れた。

そして、回峰行に連れて行くのは無理だと告げられた。

しかし私はあえてこの盲目の犬と自分の命を分かち合うことを決心した。

 


私は、目の見えない犬と、暗闇の中で目の見えない私と

どこまでも苦しみを・・・、命を・・・

分かち合ってみようと思った。

 

 

 

 

 

雨の夜、十兵衛が

十兵衛が小倉山から三方山へ向かう途中、

行方不明となった。

どれだけ叫んでもいっこうにいる気配がない。

「十兵衛!十兵衛!」とありったけの声を上げて叫んだ。

このままでは十兵衛は、野たれ死にするか、他の獣に襲われ、食われてしまう。私は必死になり探し続けた。

とうとう私は山の麓(ふもと)まで降りてみたが十兵衛の姿はどこにもない。

また再び山道を登り始め、登りながらも「十兵衛!十兵衛!」と大声で呼び続けていると、山頂ふきんの木々の間から尻尾を思いっきり振って十兵衛が走って来る。

私はひざまずき、十兵衛をきつく抱き締めた。

 


私にはかけがえのない犬だ。

形は犬でも私にとっては貴い命なのだ。

私以上に私にとって大切なものだ。

 

 

抱きしめられた十兵衛もあらん限りの声で喜びを表している。

十兵衛を探し無理に走った私の左足の親指の爪は剥がれてしまい、血が流れ出し、地下足袋を真っ赤に染めていた。

 

 

十兵衛・・・ ここで死のう!

七月二十五日、

出発前から大雨と雷。

山の方を見ると稲妻が走り、まるで昼間のようにあたりを照らしている。

 

「今日、私は死ぬかもしれない・・・」。

私の深いところからそんな思いが込み上げてきた。

 

 

雨で滑る山道を一歩、一歩、歩き続ける私の顔や体に強い雨が叩きつけられる。

十兵衛は時々心配そうに私の方を振り返る。

 

稲妻が山道を照らし出す。

道は、まるで死の中へどこまでも続いているかのようだ・・・。

 

私は額に転法輪という金具をつけ、手には金属製の錫杖をもち、腰には自決用の短刀をもっている。雷はいつ私に落ちてもおかしくはない状態だ。

ふと十兵衛を見ると、金属製の首輪をしている。私は急いで首輪を外した。これで、私に雷が落ちても十兵衛に落ちることはないだろう。

尾根づたいに歩き、下り坂の階段を降りようとしたとき、目の前に雷が落ちた。一瞬真っ白な閃光が走り抜け、地響きとともに階段を滑り落ちた。

 

「歩けない・・・」。「左足が痛い・・・」。

捻挫をしたようだ。

うつ伏せになったまま動くことができない。

倒れている私の頬の下を泥水が流れていく。

雷はさらに大きく鳴り響き、雨もいっそう強く降りだした。

心配そうに十兵衛は、私に寄り添い顔をなめだした。

 

私は、なんとか起き上がり、痛む足を引きずりながら十兵衛と走った。

しかし、なお雷は鳴り響いている。どこへ逃げればいいのか、心の中でそう叫びながら、私は逃げ惑った。

 

そして・・・

私は、再び山を転げ落ちた。やっと這い上がったものの、手も足も血まみれだ。もはや逃げ場を失った。

十兵衛に私は言った。

「ここで死のう・・・」。

 

十兵衛は伏せの姿勢で私に近づき、寄り添っている。

 

私は自決用の短刀をぬき、十兵衛を殺し自分も死のうと思った。

そして、十兵衛の顔を見ると、目から一すじの涙を流している。

「こいつは、なんて奴だ。私のために泣いている。

犬の姿をした仏なのか・・・」。

犬でさえも、愛を内なる目としてもっているのだ。

 

「十兵衛、十兵衛」と私は叫び抱きしめた。

 

 

長きにわたる苦行が夜明けと共に終わりを告げた時

雨のなか、足を痛めた私の荷物を小さな背中に背負い

風のなか、前に進めない私をかばい

雷のなか、大地に伏せる私に寄り添い

山道のなか、共にびっこになりながら歩き

寒さのなか、冷えた私の身体を暖め

飢えのなか、一杯の水を分かち合い

暗闇のなか、私の流す涙を見つめていた

 

犬の瞳が私の姿を映し出すとき

愛の涙が頬を伝う

その瞳が言葉にならない言葉を私に語り始める

 

 

私に山中で何が起きたのか

唯一、この愛する盲目の犬「十兵衛」だけが見ていた

 

 

十兵衛よ 永遠に・・・

平成十四年

八月に入り十兵衛は

自分の力では歩けなくなっていた

大きかった見えない目は、小さくなり

 

そして・・・

八月六日午後三時三十五分・・・

 

 

 

私の手のなかで数回口を動かし

小さくなった目からは一筋の涙を流し

十四年七ヶ月の命を閉じた

 

十兵衛・・・

たくさんの思い出をありがとう

 

私は

この命を分かち合った、盲目の回峰行犬十兵衛を

永遠に忘れることはないだろう・・・

 
阿闍梨 修岳

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