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焼十万枚護摩供行

死を垣間みた焼十万枚護摩供行

 

この行を成し遂げた行者は、生きた不動明王となると言われ、過去千年の間においても数十名しか満行したものはいない荒行である。

前行十四日間、本行十日間の二十四日間にわたり、五穀断ちし、日に二時間程度の睡眠。前行中は日に三度の護摩行。その度に水行し、前行中に四十二座の護摩と真言十万返。

本行は一座八時間から十時間、火の前に座り続ける。一座につき一万本の護摩木、白いゴマ一万回、十日間護摩を焚き続けるのだから、十万本、白ゴマ十万回、私の手首は、合わせて二十万回動くことになる。

いまだ悟りも光明も得られない、真に人を助けることもできないことに気づいた私は、焼十万枚護摩行に挑んだ。

昭和六十三年十月六日  焼十万枚護摩供行の前行に入り
十月二十一日 本行に入る。

十月三十日

今日で最後になる。いよいよ十万本目がやってきた・・・。

私は最後の力を振りしぼり火の前に座した。

千本、二千本・・・、しかし、もうすでに私の力は尽きていた。

 

体中の水分はなく、上下の唇がくっつき息ができない。

「このまま火あぶりになるのか・・・、」

 

九万九千本目にかかった。そのとき突然、体がけいれんを起こし始めた。

私は、歯をくいしばり、痛みを必死でこらえた。

「呼吸ができない・・・。」しばらくすると周囲が真っ暗になり始めた。

暗闇だ。何も見えない。

私は、天を仰ぎ「南無不動明王・・・、」声にならない声を発した。

「このまま死ぬのか・・・。」

私は、生死の間を彷徨い始めた。子供の頃のこと、学生の頃のこと、父や母が目の前を横切っていく。

「これは幻想だ」、私は自分に言い聞かせた。

しばらくして目に炎が見えはじめ、その中に大龍を見た。ほんの数分呼吸ができない間のことであった。

それ以後、私の体に力がよみがえってきた。

 

焼十万枚護摩供行を、生死の間を彷徨いながらも私は満行した。

 
焼十万枚護摩行
 

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